仮想の弦を弾いて音を作る:物理モデリング音源入門

弦と共鳴体の振動を表した物理モデリングのイラスト blog

弦を弾く場所を変える、素材を硬くする、胴の響きを大きくする。物理モデリング音源では、楽器が振動する仕組みをモデルとして扱い、その条件を変えながら音を作れる。サンプルを切り替える操作とは異なる視点で、演奏と音色の関係を考えられるのが特徴である。

現実の楽器をそっくり再現することだけが目的ではない。木のように減衰する金属、弦を弾いたような立ち上がりを持つ未知の共鳴体など、実物では作りにくい組み合わせも音作りの対象になる。本記事では弾く動作と響く物体を分け、短い撥弦風の音を一つ作る。

励振と共鳴を別々に見る

最初に振動へエネルギーを与える仕組みが励振であり、弾く、叩く、こする、息を吹き込むといった動作に相当する。共鳴側は、その刺激を受けて響く弦、膜、管、板などに相当する。具体的なモデルや設定名は音源ごとに異なるが、何で鳴らすかと、何が響くかを分けると見通しがよくなる。

励振を弱くしても共鳴体が長く響く設定なら、静かな余韻のある音になる。逆に強く叩いても減衰が速ければ、短い打撃音になる。音が長いから必ずリバーブが掛かっているとは限らない。まず内蔵エフェクトを外し、モデル自体の鳴り方を確認することが、音作りの出発点である。

単音の短いパターンを作る

四分音符ごとに同じ高さのノートを鳴らし、音の間に十分な隙間を空ける。速いフレーズから始めると、前の余韻と次の発音が重なって変化を判断しにくい。中音域の一音で、ベロシティを固定する。最初は音程の動きより、立ち上がりと減衰の形に集中する。

撥弦系の初期状態があれば選び、なければ最も単純なプリセットから余分な変調を止める。初期化すると無音になる音源では、励振側が有効かも確認する。ノートを長くしても音が伸びない場合は、自然に減衰するモデルなのか、ノートオフで減衰を変える設定なのかを調べたい。

弾く位置を動かす

弦のモデルに励振位置の設定があるなら、中央寄りと端寄りを比較する。弦のどこへ刺激を与えるかによって、どの振動成分が強く出るかが変わる。多くの場合、位置は明るさや空洞感に関わるが、具体的な変化はモデルによる。フィルターのカットオフと同じつもりで動かさず、響きの構成そのものがどう変わるかを聴く。

位置を変える間は、励振の強さと共鳴の減衰を固定する。端から中央まで一気に連続操作するより、三か所の値を保存して交互に再生すると違いを記憶しやすい。気に入った位置があれば名前を付け、次の設定へ進む。最初からすべてのパラメーターを動かさないことが、複雑な音源を理解する近道になる。

刺激の硬さを変える

ピックやハンマーに相当する硬さを変えると、音の頭の鋭さが変わる。硬い刺激と柔らかい刺激で、同じ共鳴体がどう聞こえるかを比較する。音量が大きくなる設定では、出力を下げて聴き比べる。強くなったことと、明るくなったことを分けて判断したい。

ベロシティが硬さや励振の量へ割り当てられている音源では、演奏の強弱で複数の条件が同時に変わる。まず固定ベロシティで音色を決め、その後で弱、中、強の三段階を試す。弱く弾くと聞こえなくなる、強く弾くと急に金属的になるといった変化があれば、対応量を調整する。演奏しやすい範囲を作る作業である。

減衰とダンピングを聴き分ける

減衰の設定は音がどれだけ続くかに関わる。ダンピングは振動のエネルギーが失われる様子を表し、高い成分が先に弱くなるような音色変化へ関わることがある。製品によって意味や範囲が違うため、単にどちらも余韻の長さと考えず、説明書を確認する。

短く乾いた音、長く明るい音、長いが暗くなる音の三つを目指すと違いをつかみやすい。音がいつ無音になるかだけでなく、鳴っている途中に明るさがどう移るかを聴く。耳で減衰の形を追えない場合は、再生間隔を広げる。短いMIDIノートを続けて入力するより、単発の余韻を最後まで確認する方が有効である。

ボディーの響きを足す

共鳴する胴や空間のモデルがあるなら、まず量をゼロにし、少しずつ加える。弦だけの音に、低い膨らみや特定の帯域の響きが加わる。ボディーを大きくすれば必ず迫力が増すとは限らず、狙った音程より胴の共鳴が目立つこともある。元の弦の輪郭が残る範囲を探したい。

サイズや材質を変更したときは、音の高さと響きの山が別々に動いていないか確認する。コードで弾くと特定の音だけ強くなる場合、ボディーの共鳴が関係している可能性がある。すぐにコンプレッサーで抑える前に、モデル側の共鳴量や位置を見直す。音の原因へ戻って調整できることも物理モデリングの利点である。

音を拾う位置も音色になる

ピックアップや観測位置に相当する設定があれば、励振位置とは別に試す。どこを鳴らすかと、どこで振動を拾うかは異なる。片方を固定してもう片方だけ動かすと、似た明るさでも響きの空洞感や成分の抜け方が変わることを確認できる。

二つのピックアップを混ぜる音源では、比率や位相関係によって成分が弱くなる場合がある。音が薄くなったからといって、常に音量不足とは限らない。単独の出力へ戻し、どの組み合わせで変化するかを見る。必要な設定を絞ることで、画面上の多くのノブが具体的な役割へ結び付いてくる。

ノートの終わりを演奏として扱う

鍵盤から指を離したときの挙動を確認する。自然に振動が残る設定、急にミュートされる設定、ダンパーが効く設定など、モデルによって違いがある。ノート長を変えても結果が同じなら、リリースに反応しないモードかもしれない。単純な音量エンベロープだけで考えず、モデルの演奏動作を見る。

四小節のフレーズへ進み、短く切る音と余韻を残す音を分ける。すべてのノート長を同じにすると、音色が繊細でも演奏が平板になる場合がある。反対に余韻を伸ばしすぎると、次の和音に前の音が残る。モデルの響きに合わせて離鍵を調整することで、音色と演奏が一緒に整う。

音域を変えて破綻を探す

中音域で作った音を、低い音と高い音でも弾く。共鳴や減衰が音域に応じて自然に変わるモデルもあれば、設定の影響が極端に出るモデルもある。特定の範囲だけで使う音なら、無理に全鍵盤で均質にする必要はない。用途に合う演奏範囲を明確にすることが先である。

和音を弾いたときは同時発音数とCPU負荷も見る。単音で安定していても、長い余韻が重なると処理量が増える場合がある。必要な発音数を確保し、完成した部分はオーディオへ保存する方法も使える。品質や負荷の設定は音源ごとに異なるため、実際のプロジェクトで確認したい。

現実の再現と架空の楽器を分ける

ギターらしい音を作りたいなら、音色だけでなく音域、同時に鳴らせる音、フレーズの間合いも重要になる。一方、現実に存在しない楽器を作るなら、自然な制約を外してもよい。どちらを目標にしているかが曖昧だと、「本物らしくない」ことを欠点にするべきか、個性として残すべきか判断しにくい。

練習では同じモデルから「短い撥弦」「柔らかい木質音」「長い金属的な音」の三版を作る。使った設定の違いを記録し、同じMIDIで聴き比べる。物理モデリングは現実の楽器名を選ぶだけの機能ではない。鳴らし方と響き方の関係を考え、音の仕組みから自分の楽器を組み立てる方法なのである。

同じ音を連打して挙動を確かめる

一音の余韻が気に入ったら、同じ音を八分音符で連打する。前の振動へ次の刺激が加わるモデルと、毎回独立した声部が立ち上がるモデルでは、重なり方が異なる。単発で整えた音が連続演奏でどう変わるかを確認すると、実際のフレーズに合う減衰や発音数を選びやすくなる。

連打で音量が増え続けるように聞こえる場合は、余韻、共鳴量、同時発音数を順番に見る。すぐにマスターのリミッターへ頼らず、鳴り方そのものを整える。反対に次の発音で前の余韻が切れる場合は、単音モードやボイス数の設定が関係していないか確認する。音色の問題と発音管理の問題を分けて考えたい。

制御するパラメーターを少数選ぶ

演奏へ表情を付けるなら、ベロシティで刺激の強さ、ノブでダンピングなど、役割の異なる二つを選ぶ。複数の条件を一つの操作へ大量に割り当てる前に、それぞれが単独でどう変わるかを確かめる。狭い範囲でも、物理モデルでは演奏感の違いが大きく出る場合がある。

動かした値の全域で音が安定しているかを確認し、曲で使う範囲へ制限する。極端な値が面白い効果音になる場合もあるが、旋律用の楽器としては扱いにくいことがある。演奏する音色と、素材として一度だけ録る効果音では必要な安定性が異なる。用途を分ければ、現実離れした設定も積極的に試せる。

設定を選ぶ際は、モデルの図が実物らしく見えるかより、弾いたときに意図した反応が返るかを重視する。見た目の物理量と製品内部の処理は必ずしも一対一ではない。説明書で意味を確認しつつ、短い演奏例を使って反応を確かめることが、実用的な理解につながる。

参考資料

Ableton:Live Instrument ReferenceのTensionなど、物理モデルを使う音源の説明を参照した。すべての製品に同じパラメーターがあるわけではないため、本文では共通する考え方と比較の順序を中心に扱った。

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