シンセの音作りというと、明るい波形をフィルターで削る方法を思い浮かべやすい。加算合成は、単純な成分を足して響きを組み立てる方法である。どの高さの成分を、どれだけ、どのくらい長く鳴らすかを決めることで、穏やかな持続音から金属的な音まで考えられる。
本記事ではサイン波を材料に、基音、整数倍の成分、時間変化の順で実験する。専用の加算合成シンセがあれば便利だが、最初の数成分は複数のサイン波音源を重ねても確認できる。膨大な数のパーシャルを一度に編集する前に、三つか四つの成分で何が変わるかを聴きたい。
基音と部分音を整理する
音を構成する周波数成分を部分音、パーシャルと呼ぶ。基準となる周波数の整数倍に並ぶ成分は、調和的な倍音関係として扱える。例えば基準を220Hzとすると、440Hz、660Hz、880Hzはそれぞれ2倍、3倍、4倍である。すべての部分音が必ず整数倍になるわけではないため、倍音と部分音を場面に応じて区別したい。
最初は220Hzのサイン波だけを低めの音量で鳴らす。次に440Hzを小さく足すと、基準の音へ明るさや厚みが加わる。二つの音として分かれて聞こえるか、一つの音色としてまとまるかは、音量、立ち上がり、音域によって変わる。単純な成分から始めると、その境界も観察しやすい。
一つずつ足して比較する
専用音源なら第1成分だけを鳴らし、第2、第3、第4を順番に加える。一般的なシンセを重ねるなら、各トラックの波形をサイン波にし、余分なフィルター変調やエフェクトを止める。複数のオシレーターを使う場合も、FM接続になっていないか確認する。今回は成分を変調し合うのではなく、出力を足し合わせる実験である。
追加する成分は最初から大きくしない。基音に対して第2成分を控えめに、第3をさらに小さくするなど、聞き分けられる量から始める。成分を足すと全体の音量も増えるため、出力を調整して比較する。音が大きくなったことを、音色が良くなったことと取り違えないようにしたい。
第三成分は十二平均律と完全には一致しない
周波数比を正確に設定できる音源では、3倍をそのまま指定できる。一方、鍵盤の半音単位だけで重ねる場合、3倍に近い位置は一オクターブと完全五度、つまり19半音上になるが、12平均律では厳密に同じ周波数ではない。細かな調整ができるなら、この差も比較できる。
通常の作曲練習では、完全な一致にこだわらず近似として聴いてもよい。ただし「第三倍音を正確に作った」と説明する場合は周波数比を確認する。加算合成では音程の関係そのものが音色の材料になるため、鍵盤上の距離と周波数比を区別しておくと、非整数倍の成分へ進むときにも役立つ。
奇数成分だけを残してみる
第1、第3、第5のような奇数成分だけを使う版を作る。次に第2、第4を追加した版と比べる。同じ基音でも、どの成分があるかで中身の印象が変わることを聴き取れる。少数の成分を使った実験は、理想的な矩形波や鋸歯状波を完全に再現する課題とは別である。
特定の波形を厳密に合成するには、成分の数だけでなく振幅や位相の関係も必要になる。ここでは波形名を当てるより、「偶数の成分を足すと今回の音がどう変わるか」を確認する。画面上の波形が複雑になっても、曲で使いやすいとは限らない。耳で違いを説明できる範囲から成分を増やしたい。
オルガン風の持続音を作る
複数成分を同じタイミングで立ち上げ、鍵盤を押している間は音量を保つようにする。第1、第2、第3、第4などの比率を調整すると、ドローバーで響きを組み立てるような考え方を体験できる。実際のオルガンの再現には機構や演奏特性も関わるため、この段階ではオルガン風の持続音と考える。
単音だけでなく三和音でも試す。単音では魅力的だった高い成分が、和音では密集して鋭く聞こえる場合がある。高いパーシャルを減らすか、和音の配置を広げると見通しが変わる。音色を作るときから実際の演奏内容を使えば、後で曲へ戻した際の大幅な修正を減らせる。
成分ごとに減衰を変える
次は高い成分だけ早く小さくし、低い成分を長く残す。最初は明るく、後半は穏やかになる音を、フィルター以外の方法で作れる。例えば第4成分の減衰を短く、第2成分を中程度、第1成分を長めにする。具体的な時間はテンポとフレーズの長さに合わせて決めればよい。
全成分を同じエンベロープへまとめた版と比べると、音色そのものが時間とともに変わる効果を確認できる。ノートの終わりで急に音が切れる場合は、各成分のリリースも整える。音量が小さくなっただけなのか、高い成分が先に消えたのかを聴き分けることが、この練習の中心である。
非整数倍で金属的な響きを探す
成分の比率を整数倍から少し外すと、基音の倍音列だけでは説明できない響きになる。例えば基準の2倍、3倍だった成分の一方を、2.7倍のような比率へ変えて比較する。金属的、鐘のようと感じることがあるが、少数の比率だけで実在の楽器を正確に再現するわけではない。
この実験ではまず単音を使い、音域を変えたときも比率が保たれる設定かを確認する。固定Hzで成分を置いた場合と、鍵盤に追従する比率で置いた場合では、別の音を弾いたときの関係が変わる。どちらも音作りに使えるが、メロディーを演奏したいなら追従の仕組みを理解しておきたい。
位相を最初から複雑にしない
加算した波の形は、各成分の位相によっても変わる。同じ成分と音量でも、立ち上がりの波形や瞬間的なピークが異なる場合がある。専用音源に位相のリセットやランダム化があるなら、初めは条件を固定すると比較しやすい。毎回違う位相で鳴ると、小さな差の原因を見つけにくくなる。
ただし位相をそろえれば常に音楽的に優れるわけではない。打楽器的な音ではアタックの再現性を重視し、持続するパッドでは少しずつ変わる響きを好む場合もある。まず成分と振幅を決め、その後で位相の変化を試す。独立した条件として扱えば、設定数が多くても見通しを保てる。
高い鍵盤での音を確認する
基音を上げると、それに比例する高いパーシャルも上がる。デジタル音源では、内部処理やアンチエイリアスの方法によって高域の挙動が異なる。低い音だけで作った設定を高い鍵盤で弾くと、急に明るさが変わったり、望まない成分が目立ったりする場合がある。
実際に使う最低音と最高音を先に決め、その範囲で単音と和音を確認する。高域が強すぎるときは、出力全体を下げるだけでなく、高い成分の量を減らす。製品によっては音域に応じて成分を調整する機能もある。特定の品質設定が必ず必要と決めつけず、使う音源の説明と聴感を合わせて判断したい。
三つの音色を同じ旋律で比べる
基音中心の穏やかな音、複数倍音の持続音、高い成分が先に減衰する短い音を作る。同じ四小節のMIDIを使えば、成分の組み合わせが演奏の印象へどう関わるか分かる。音量を近づけ、単独再生の後にベースやドラムを戻す。単音の実験結果を楽曲の役割へ結び付ける工程である。
気に入った音色には、主要な周波数比、各成分の量、減衰の違いを記録する。複数トラックで作ったならまとめて管理し、元のトラックを残したうえでオーディオへ保存する。加算合成の魅力は、複雑な音を細かい成分へ分けて考えられることにある。少数のサイン波で変化を理解すれば、大きな音源のパーシャル編集も目的を持って進められる。
周波数比と振幅を別々に記録する
同じ成分が存在していても、振幅の配分で響きは大きく変わる。練習ノートには「比率1、2、3、4」といった構成と、それぞれの相対的な量を分けて書く。パーセント表示とdB表示では感覚が違うため、使用した音源の単位も残す。別の音源へ移すときは値の見た目を合わせるより、同じ素材で音量関係を比較する。
試しに第1成分を固定し、第2だけを上げる版と第3だけを上げる版を作る。二つの変化を一緒に動かさなければ、どの成分が今回の音色へ何を加えたか分かる。専用音源に多数の棒が並んでいても、すべてを触る必要はない。少数の重要な成分を見つける方が、目的のある編集につながる。
基音を弱くした版も比較する
高い成分を残したまま基音を弱くし、音の高さの感じ方がどう変わるか聴く。基音が小さくても、その上の成分の関係から一定の音高を感じることがある。一方、音域や成分によっては薄く、別の音に聞こえる場合もある。基音が最も大きくなければならないという固定観念を外し、必要な聞こえ方から配分を選ぶ練習になる。
低音を支える楽器として使うなら、単独での音高感だけでなく、曲の中の重さも確認する。上の成分があれば小型スピーカーで追いやすくなることがあるが、それだけで低域の感触が同じになるわけではない。複数の再生環境で聴き、どの範囲を担当させる音色なのかを決めたい。
加算合成の設定を他の人へ渡す場合は、完成音の短い例も添える。部分音の相対値が同じでも、音源の位相、包絡、内部の正規化によって結果が変わることがある。数値の一覧と実際の音を組み合わせることで、設定の共有をより確実にできる。
参考資料
Apple:Other synthesis methods overviewを合成方式の基礎確認に参照した。数値と比較課題は、本記事のために用意した音作りの例である。

