サビへ入る直前に、音が次の一拍へ吸い込まれるような効果を加えたいことがある。新しい効果音を探さなくても、自分の曲にある短い音を逆再生すると、次の場面を予告する素材を作れる。残響を含めて反転すれば、発音へ向かって膨らむ形も得られる。
今回は、逆再生した音と、リバーブの尾を反転した音を作り分ける。曲を途切れなく繰り返すための編集ではなく、切替点へ向かう意図的な効果音の制作である。原音を保ったコピーで作業を進める。
到着する一拍を先に決める
まず効果音の終わりが届く場所を決める。例えばサビの最初のキックが鳴る一拍目へマーカーを置く。効果音を作ってから適当に置くより、どこへ向かう音かを先に決める方が長さを選びやすい。
その直前の一拍、二拍、一小節という三つの範囲を用意する。短い合図と長い盛り上がりは別の効果になる。最初は二拍の範囲へ収めることを目標にし、前のフレーズを覆いすぎない形から始める。
素材には、曲で使っているピアノの一音やコード、短いシンバルなどを選ぶ。到着する和音と関係のある音を使うと、効果音だけが別の世界へ聞こえることを減らせる。音程を含まない素材と含む素材は、別の候補として比較したい。
まず短い原音を逆再生する
素材を音声へ書き出し、元のトラックとは別の場所へ読み込む。通常の減衰音を反転すると、小さな尾から大きな発音へ向かう形になる。逆再生したクリップの大きな終わりを、決めた到着位置へ合わせる。
Ableton LiveではReverseによって反転したサンプルを作る機能が説明されている。公式マニュアルのReversing Samplesで具体的な挙動を確認できる。他のDAWでは元ファイルを直接変更する方式もあるため、機能の範囲を確認し、独立したコピーで試す。
短い音では、逆再生しても長い上昇感が出るとは限らない。必要以上に引き伸ばす前に、元から余韻のある素材を使う版も作る。長さを加工する方式によって質感が変わるため、実際に聴いて選ぶ。
リバーブの尾を別の音声へ記録する
次に同じ素材へリバーブをかけ、原音と尾を含む短い音声を書き出す。今回は原音を含む版と、残響だけの版を分けて保存する。残響だけを反転すれば、元の打撃の頭とは異なる、柔らかく膨らむ素材を作れる。
リバーブの長さは、曲の直前に置ける時間を考えて選ぶ。一拍分しか空いていない場所へ非常に長い尾を押し込むと、加工の量が増える。先に二拍程度の到着範囲を決め、その範囲で使える響きから試したい。
書き出したファイルを単独で聴き、尾が途中で切れていないか確認する。書き出し範囲が元の短いノートだけになっていると、反転するための材料が残らない。クリップの見た目より、音声の実際の末尾を基準にする。
反転した尾を到着点へ合わせる
残響のファイルを反転し、膨らみの最後をサビの一拍目付近へ置く。原音を含めた反転では、終わりに強い打撃が残ることがある。次のキックやコードと重なりすぎるなら、終端を少し早めるか、残響だけの版へ替える。
効果音の終わりをマーカーへ合わせることと、聞こえる頂点を合わせることは同じとは限らない。長さを切った後も、音が最大になる時点を聴いて確認する。頂点が早すぎる場合は、前後の位置かフェードの形を調整する。
冒頭には短いフェードを付け、ファイルの境界でクリックが出ないか確かめる。終わりも必要なら整えるが、大きなフェードで到着感まで消してしまわないようにする。波形を滑らかにする操作と、音楽の勢いを残す操作を両立させたい。
前のフレーズを邪魔しない範囲を探す
効果音を単独で大きくしすぎると、到着先より直前の膨らみが主役になってしまう。まず小さな量から加え、サビの最初の発音が相対的に弱くならないかを聴く。前の歌の語尾を覆う場合は、開始を後ろへ移す方法もある。
低い成分を含む素材なら、キックやベースと重なる時間も確認する。必要なら効果音側の低域を整理するが、音程のある素材の基音まで失っていないかも聴く。曲の中で必要な帯域へ絞ることが目的である。
同じ効果を毎回の区切りへ置く必要はない。最初のサビには入れず、最後の大きな展開だけに使うといった配置もできる。効果音を増やすより、どこで到着を強調したいかを選ぶ。
二拍の長さを、先に秒へ置き換える
テンポ120BPMでは四分音符一拍が0.5秒なので、二拍は一秒となる。テンポ90BPMでは一拍が約0.667秒、二拍は約1.33秒である。効果音を作る前に使える時間を把握すると、必要な余韻の長さを選びやすい。ただし、この秒数へ厳密に合わせれば自然になるというわけではなく、前のフレーズと到着点を聴くための目安として使う。
まず一秒程度の上昇を作りたいなら、それより少し長い減衰を持つ素材を録る。反転後の冒頭に小さすぎる尾が長く残っていたら、聞こえ始める位置を確認して切り詰める。ファイルの長さが二拍でも、音として感じられる膨らみが最後の半拍だけなら、狙った助走と違う場合がある。波形の端より実際に聞こえる範囲を優先する。
長さを伸縮する際は、音程を保つ方式と速度を変える方式の違いを確認する。コードやピアノを材料にするなら、到着する和音との関係が変わっていないかを聴く。シンバルなど明確な音程の薄い素材では、速度の変更による質感も選択肢になる。どちらも試せるが、同じ操作名でも結果が違うことを意識しておきたい。
原音ありと残響だけの版を作り分ける
ピアノの短いコードを素材にし、原音とリバーブを含む音声をまず書き出す。次にリバーブの処理音だけを書き出す。別のリターンを使うなら、その戻りだけを録音する方法がある。インサートならDryとWetの設定を確認する。原音が本当に含まれていないか、書き出した音を単独で再生して確かめることが必要である。
二つを反転して同じ到着点へ置くと、原音ありの版は終わりに強い発音を持ちやすく、残響だけの版は柔らかく膨らむ形になりやすい。サビの頭に強いキックがあるなら、原音の逆向きのアタックが重なりすぎる場合がある。終端を少し前へずらすか、残響だけの版へ替えて、サビの最初の一撃が主役として残るようにする。
通常の余韻を反転する方法に加え、先に原音を反転し、それへリバーブをかけて書き出し、全体をもう一度反転する方法もある。後者では元の順序へ戻った音に向かう残響を作れるため、語句や長めのフレーズで違いを試しやすい。二つを同じ結果と考えず、処理の順番によってどこに膨らみが現れるかを比較する。
終端の合わせ方を三種類試す
効果音の最後をサビの頭にぴったり合わせる版、少し手前で終える版、少しだけ重ねる版を作る。ぴったりの版は区切りが明快でも、終端の切断が気になる場合がある。手前で終える版では小さな空白が到着を強めることもある。重ねる版は滑らかだが、最初のキックや歌を覆わないか確認したい。
移動する量は最初から大きくせず、短い範囲で前後を比較する。画面上のスナップを一時的に細かくして調整してもよいが、最後には曲の拍を感じながら聴く。波形の最大の山がマーカーに合っていることと、耳で吸い込まれるように感じることは同じではない。効果音単独ではなく、到着先の音と一組で評価する。
終端にフェードを付ける場合も、短いものから始める。長いフェードで大きな部分を消すと、せっかくの上昇が頂点の直前で弱くなることがある。クリックをなくすことと、到着感を保つことの両方を聴き、必要なら素材の末尾を少し切り直す。加工を重ねるより、最初から別の長さの尾を作る方が自然な場合もある。
到着するコードと前の歌詞を両方見る
音程のある効果音は、到着先のコードから作るとつながりを作りやすい。ただし、それを早く始めると、直前のコードと異なる音が長く重なる場合がある。例えば次の和音の特徴的な音が前の旋律とぶつかるなら、効果音の開始を後ろへ移す、構成音を減らす、音程の薄い素材へ替えるなどの方法を試せる。
前の歌の語尾が大切な場所では、上昇音を大きくする前に、その語尾が聞こえるかを確認する。効果音の高域を少し抑えるだけで改善する場合もあれば、そもそも開始時間を変えた方がよい場合もある。EQだけで解決しようとせず、登場する時間を編集できることを思い出したい。効果音も編曲の一つとして扱うことが重要である。
低域の多いコードを反転した場合、サビの直前にベースが膨らみ、到着するキックの重みが弱く感じられることがある。効果音側の低音を控えた版を作り、サビへ入った瞬間の差を聴く。効果音そのものの迫力より、その後の場面がどう聞こえるかを基準にすると、必要な帯域を選びやすい。
曲の中で一回だけ使う版から仕上げる
最初の完成版では、最も大きな展開の一か所だけへ置く。同じ素材をすべての区切りへコピーする前に、そこが本当に強調されたかを聴く。二回目にも使うなら、長さを半分にする、音色を薄くするなど、役割の違う版を作る方法がある。長い上昇を何度も使うより、曲の節目の大きさへ合わせて変化を付けられる。
効果音をミュートした版と入れた版を同程度の音量で比べ、前のフレーズから次の一拍へ向かう感覚が増したかを確認する。入れた方が単にうるさくなったなら、音量、開始位置、終端の重なりの順に戻してみる。目的は効果音を目立たせることではなく、曲の場面転換を支えることである。
保存時には、原音、リバーブを書き出した素材、反転後の素材を分け、使用したテンポと長さも記録する。曲のテンポを変更した後は、効果音が拍へ追従する設定かを確認し、到着点を聴き直す。短い合図でも制作の途中へ戻れるようにしておけば、別のサビや違う曲へ自然な長さで作り直せる。
原音と効果音を一組として残す
最後に、素材の原音、通常の残響、反転した残響を別々に保存する。効果音を少し長くしたい場合や、到着するコードを替える場合に、元へ戻って作り直せるようにするためである。
逆再生の魅力は、音を反対にする珍しさだけではない。減衰を上昇へ変え、次の発音へ向かう時間を作れることにある。到着位置と使える長さを先に決めると、曲の流れに合わせた自作の合図として扱いやすくなる。

