ピアノの音符を正しい位置へ並べても、伴奏が硬く聞こえたり、コードが変わる場所で濁ったりすることがある。原因は、音を出すタイミングや強さだけとは限らない。鍵盤をいつ離すか、ペダルをいつ戻すか、複数の声部をどう支えるかが、ピアノらしい響きへ関係する。
本記事では、右手の旋律、内側の和音、左手の低音がある短いフレーズを想定する。既存のドラムのグルーヴ調整とは違い、ピアノ固有の音の終わりと持続を中心に、MIDIを編集する手順を考える。
音符の長さと実際の響きを分ける
ピアノロールに表示される長さは、基本的にノートオンからノートオフまでの区間である。実際に音が消えるまでの時間は、音源の減衰、リリース、ペダルの状態にも左右される。画面の音符が終わったから、すべての響きも終わったとは限らない。
まずペダルと残響系のエフェクトを外し、単音を短く、長く入力して比較する。鍵盤を離したときに何が変わる音源なのかを確かめる。この確認がないまま長さを編集すると、見た目を整えたのに聞こえ方が変わらないこともある。
リバーブは最後に戻す。音源内の響き、ペダルによる持続、外部の残響を一度に聴くと、どこで音が重なったか分からなくなる。最初は処理を減らし、MIDIの操作と発音の関係を明確にすることが重要である。
声部ごとに役割を決める
同じ和音の中でも、旋律、内声、低音は役割が違う。すべてを同じベロシティへそろえると、主旋律が伴奏に埋もれる場合がある。最初に、耳で追ってほしい音を一つ決め、その声部が自然に聞こえる強さへ整える。
例えば右手の一番高い音を旋律とし、中間の二音を和音、左手を低音にする。まず旋律だけを聴き、次に内声、最後に低音を戻す。音を増やしたときに旋律が見えなくなるなら、全体を上げる前に伴奏側の強さを調整する。
音源によってベロシティは、音量だけでなく音色やサンプルの切り替えへ影響する。旋律を少し強くすると明瞭になる場合も、硬い打鍵が目立ちすぎる場合もある。固定の差を全曲へ適用するより、フレーズの役割を聴いて決めたい。
離鍵でフレーズの呼吸を作る
音を出す位置ばかりを見ると、終わり方がそろわない。短く切る音、次へつながる音、フレーズの最後へ余韻を残す音を分ける。鍵盤を離す位置は、旋律の方向や伴奏のリズムを伝える要素である。
練習では同じ八分音符の旋律を、短く切る版と、次の音の直前まで伸ばす版で比較する。さらにフレーズの終わりだけ長くした版を作る。音の高さと開始位置を変えず、終端だけでどこまで印象が変わるかを確かめる。
すべての音を長く重ねれば滑らかになるわけではない。特に低い音や半音で動く内声では、重なりによって別の響きが生まれる。レガートにしたい箇所でも、ノートの重なりと音源の減衰を合わせて聴く必要がある。
ペダルの情報を見える状態にする
一般的なMIDI 1.0のサステインペダルにはCC64を使う。基本のオン・オフ解釈では、値が63以下ならオフ、64以上ならオンとなる。対応機器や音源によっては連続値を使う半ペダル表現もあるため、手元の対応範囲を確認する。MIDI Association公式のコントロールチェンジ一覧
DAWでペダルのレーンを表示し、どこで踏み、どこで離しているかを見る。ノートを短くしたのに濁りが消えない場合、ペダルが長くオンになっている可能性がある。演奏を途中から再生した際の状態も、DAWと音源の設定によって確認が必要になる。
入力用のペダルを使う場合は、踏んだときにオンになるかを短い録音で確かめる。極性や接続時の状態によって逆に動く製品もある。録音されたCC64を見れば、足の操作とデータの対応を確認しやすい。
コードの切り替わりでペダルを更新する
前の和音の響きが次の和音へ残りすぎると、コードの変化が曖昧になる。最初は一つのコードにつき一回、ペダルを離して踏み直す形から試す。ずっと踏んだ版と比べ、どの音が濁りへ関係するかを聴く。
実際の奏法では、新しい和音を弾いた直後に踏み替えるなど、音のつながりを保つ方法が使われる。打ち込みでも、ノートの頭とまったく同じ位置へ固定するだけでなく、少し前後させて比較できる。どの方法が自然かは、テンポと音源の鳴り方で変わる。
ペダルを離すと急に乾いた音になる場合、ノートの長さまで短すぎる可能性がある。先に鍵盤で保つ長さを決め、その後にペダルで補う持続を加える。ペダル一つでフレーズのすべてをつなごうとしない方が、濁りと自然さを調整しやすい。
和音の音を無作為にずらさない
複数の音を少しずらすと、機械的な同時発音を和らげられる場合がある。しかし、毎回無作為に散らすと、主旋律や低音が拍へ合わなくなることもある。表情を付ける前に、何を一緒に鳴らしたいかを決めることが大切である。
和音を下から上へ広げる場合は、アルペジオとして意図するのか、わずかな打鍵差にとどめるのかを分ける。前者は音楽上のリズムになるため、旋律や歌との関係を確認する。後者でも高い音が遅れすぎると、フレーズが後ろへ引かれて聞こえる。
実際に鍵盤で入力した演奏なら、最初からすべてをクオンタイズせず、魅力になっている動きを聴く。修正するのは意図しないずれからでよい。和音のまとまりを残したまま、大きなずれを整える方法を試したい。
低音は長さと音域を一緒に見る
左手の低音が長く残り続けると、右手が整っていても全体が重く聞こえる。低い場所では近い音同士の重なりが目立ちやすいこともある。まず低音のノート長とペダルの関係を確認し、必要な持続だけを残す。
歌や別のベースがある編成なら、ピアノの左手がどの役割を担うかも考える。土台の音を重ねたいのか、和音の輪郭だけを支えたいのかで、音域と長さは変わる。音を消す前に、オクターブを上げる、音数を減らすなど、配置の候補を比較できる。
こもりの原因をEQだけで直す前に、既存のミックス整理の記事で示したように、重なる音と余韻を確認したい。今回のピアノでは、離鍵とペダルを編集することで、その原因へ直接働きかけられる。
四小節で三つの演奏を作る
練習用の四小節へ、旋律、和音、低音を入力する。最初は全音同じ強さ、同じ長さ、ペダルなしで基準を作る。次に声部の強さと離鍵だけを変更し、最後にコードごとのペダルを加える。各段階を別の版として残す。
比較するのは、人間らしさという曖昧な印象だけではない。旋律を追えるか、コードの変化が分かるか、フレーズの終わりが自然か、低音が次の音へ残りすぎないかを見る。項目を決めれば、どの操作が役立ったかを記録できる。
気になる箇所を見つけても、強さ、長さ、ペダルを同時に変えないようにする。まず一つを動かし、改善しなければ戻して次を試す。細かなランダム化を追加する前に、声部と響きの関係を整える方が、修正の目的を保ちやすい。
最後は伴奏としての役割を確かめる
ピアノ単独で豊かに聞こえても、歌やほかの楽器を戻すと響きが多すぎる場合がある。曲全体で再生し、歌の言葉やベースの動きを隠していないか確認する。必要ならペダルの量や伴奏の強さを少し減らす。
残響系のエフェクトを戻した後も、コードの境目と終わりを聴く。音源と外部リバーブの余韻が合わさるため、ペダルだけの確認では見えなかった重なりが生まれることがある。書き出した音声でも、最後まで必要な響きが残っているか確認したい。
ピアノの表情は、音を出した瞬間だけで決まらない。離鍵、ペダル、声部の強弱を分けて編集すると、同じ音符からも異なる呼吸を作れる。まず短いフレーズで、どの音を聞かせ、どの響きを次へ渡すかを決めることが、自然な打ち込みへつながる。

