ドラムの音源を差し替えたら、キックのはずの位置で別の音が鳴ったり、ハイハットが無音になったりすることがある。MIDIデータが壊れたとは限らない。ドラム音源では、どのノート番号でどの楽器を鳴らすかが決まっており、その対応が音源やキットによって違うためである。
本記事では、音源を替えたときの誤発音を調べ、既存のフレーズを正しく移す手順を整理する。ドラムを自然に聞かせる強弱やタイミングの話ではなく、入力したノートと実際に鳴る楽器を一致させる作業が中心である。まず一小節だけを使って対応表を作りたい。
MIDIには楽器名がそのまま入っていない
通常のMIDIノートには、ノート番号、開始時刻、長さ、ベロシティ、チャンネルなどが含まれる。ドラムのキックという意味が、どの音源にも共通の名称として必ず保存されるわけではない。受け取った音源が、そのノート番号へ割り当てられた音を再生するのである。
General MIDIには打楽器の標準的な対応があるが、すべての専用ドラム音源やカスタムキットが同じ配置とは限らない。GM対応のデータをGM互換の音源へ送る場合と、独自の配置を持つ音源へ送る場合を区別する必要がある。製品名を替えるだけで完全互換になるとは考えない方がよい。
また、GMの打楽器用チャンネルの慣例と、DAW内の専用ドラムトラックの動作も同じとは限らない。音源が全チャンネルを受け取る設定なら、チャンネル番号を変えても楽器の対応は直らない。まずノートの配置を調べ、必要な場合にだけ受信チャンネルを確認するのである。
オクターブ表記よりノート番号を使う
同じノート番号でも、DAWによってC1、C2などの表示が違うことがある。これは基準とするオクターブ番号の付け方が異なるためである。「キックはC1」とだけ書くと、相手の環境では一オクターブ違う場所を選んでしまう場合がある。設定の照合には数値のノート番号を使いたい。
GMの代表例では、ノート番号36がBass Drum 1、38がAcoustic Snare、42がClosed Hi Hatに対応する。しかし、移行先の音源でも同じとは限らない。これらを正解として強制するのではなく、元のデータが何を意図しているかを調べる目印として使うのである。
ピアノロールに番号が表示されない場合は、イベント一覧や音源のマッピング画面を確認する。鍵盤を押して鳴った音もメモする。「表示はC1、番号は36、キック」のように三つを残せば、後で別の表示規則の環境へ移す際にも対応を確認しやすい。
元のフレーズを複製して調べる
最初にMIDIクリップと音源トラックを複製し、元の状態を残す。音源のプリセット名も記録する。同じ製品でもキットの配置や奏法が変わる場合があるため、音源名だけでは再現条件として足りないことがある。変更は複製した側で行うと、元の演奏と比較できる。
元の音源で、キックだけ、スネアだけ、ハイハットだけを順に再生する。ノート番号と聞こえる楽器を対応表へ書く。多くのノートがある場合も、最初は曲の主要な三つから始める。全範囲の鍵盤を調べるより、実際に使用しているノートを優先する方が早い。
ハイハットなどに複数の奏法がある場合は、閉じた音、開いた音、ペダルの音を別々に記録する。全部を「ハイハット」とまとめてしまうと、音源を替えた後に演奏の違いが失われる。スネアも通常打ち、リム、ブラシなど、曲で使っている役割まで区別したい。
移行先の対応を少数の音で確かめる
新しい音源へ、ノートを一つずつ送るテスト用クリップを作る。最初はベロシティを一定にし、十分な間隔を空ける。連続して多くの音を鳴らすと、前の余韻と混ざって楽器を取り違えやすい。音源の説明書やマッピング画面と照らし合わせて、実際の発音を確認するのである。
例えば元のキックが36、新しい音源のキックが別の番号なら、その対応を記録する。次にスネア、クローズドハイハット、オープンハイハットへ進む。番号が一致していても、奏法や音の長さが違う場合があるため、表の一致だけでなく演奏としての結果も聞く必要がある。
音が鳴らない場合は、番号が未割り当てなのか、受信チャンネルが違うのか、音源内の出力先が別になっているのかを順に調べる。ミキサーの別出力へ音が出ている場合、MIDIノートを移動しても直らない。誤った楽器が鳴る問題と、信号が聞こえない問題を分けて考えるのである。
ドラムマップか音源内の設定で合わせる
DAWにドラムマップがある場合は、表示上の楽器名と入力ノート、出力ノートの対応を設定できることがある。機能の範囲はDAWによって違い、単に名前を付けるだけの機能もある。名称を直しただけで送信する番号が変わるか、必ずテストして確認したい。
音源側にGMマップや他製品向けの配置を読み込む機能があるなら、まず対応する設定を試す。既存データを変更せずに再生できる可能性がある。ただし、奏法の細かい対応まで保証されるとは限らない。基本の三音が合った後、フィルや特殊なノートも確認するのである。
設定を保存するときは、音源のキットとマップを組にして残す。「このMIDIはこのマップで再生する」と分かる状態にすることが大切である。別のプリセットを読み込んだ際にマップが初期化される製品もあるため、保存して開き直す確認まで行うと再現しやすい。
ノートを移動する場合は一括処理に注意する
MIDI自体を変更するなら、同じ番号のノートをまとめて選び、移行先の番号へ動かす。タイミング、長さ、ベロシティは保つ。音程の段差が同じだからと全クリップを一括移調すると、キックは合ってもスネアやシンバルが違う位置へ移る場合がある。楽器ごとの対応が必要なのである。
移動先の番号に別の楽器の元ノートがある場合は、置き換えの順序にも注意する。先に移したノートまで次の一括選択へ含めると、二重に移動してしまうことがある。元のクリップを基準に、楽器別トラックへ分けて変更するなど、元の所属が分かる方法を使いたい。
変更後は楽器別に再生し、それから全体へ戻す。特に一小節末のフィルは、普段使わないタムやシンバルが含まれやすい。基本パターンだけ合っている状態で完成とせず、曲の始まりから終わりまで、使用しているすべての番号を対応表と照合するのである。
正しい楽器でも演奏は変わる
ノート番号が合っても、ベロシティへの反応は音源によって違う。元の強弱が新しい音源では極端に小さかったり、強いサンプルばかり鳴らしたりする場合がある。まず配置を直し、その後に強弱を調整する。二つを同時に修正すると、どちらが原因か分かりにくくなる。
オープンハイハットを閉じた音で止める仕組みも確認する。チョークグループや連動設定がないと、番号は正しくても開いた音が長く重なり続けることがある。連続する二音だけを再生して、意図した位置で余韻が止まるかを聞くと判断しやすい。
移行作業の完成条件は、全ノートが何かの音を鳴らすことではない。元の役割が保たれ、必要な奏法が再現され、曲の中で狙ったリズムとして聞こえることである。音源を替えた音色の違いは残しつつ、意図しない楽器の入れ替わりを取り除きたい。
参考資料と記録
ドラムマップの入力・出力ノートなどの具体例は、Steinbergのドラムマップ解説で確認できる。GMの打楽器用チャンネルとノート範囲は、MIDI Associationの解説も参考になる。
対応を直した後の強弱調整には、当サイトのドラムの打ち込みの記事が役立つ。音源名、キット名、ノート番号、奏法をまとめて残しておけば、次に音源を変更するときも作業を再開しやすい。音の配置を知ることが、演奏を保ちながら音色を選び直す土台になるのである。

