アコースティックギターを録ったら、部屋で聴く音より低音が膨らんだり、弦の硬い音だけが目立ったりすることがある。楽器の音は一か所から均一に出ているわけではないため、マイクの向きと位置によって録音の印象が変わる。
今回はマイク一本で、伴奏として使いやすい音を探す。エレキギターのDI録音とは異なり、楽器が空気へ放射する音を収録する方法である。二本のマイクを組み合わせる前に、一本で胴鳴りと弦の輪郭の関係をつかむ。
比較する演奏を短く決める
練習には、同じコードを同じ強さで弾く十数秒の演奏を用意する。ストローク中心の曲ならストローク、指弾きの曲なら指弾きで録る。録音するたびに奏法や力を変えると、マイク位置の差を判断しにくくなる。
演奏者の椅子とマイクスタンドの位置へ印を付ける。ギターを前後に動かすだけでも距離が変わるため、自然に演奏できる姿勢を先に決める。比較のために体を固めすぎる必要はないが、大きな移動を避けると違いを聴きやすい。
最初はEQやコンプレッサーを使わずに録る。入力レベルは強いストロークでもクリッピングしない状態へ設定し、録音した後の比較音量をそろえる。録音レベルを高くすることを、音の厚さを作る手段にしない。
ネックと胴の境目付近から試す
開始位置の一例として、マイクをネックと胴の境目付近へ向け、ギターから20〜40cmほど離して試す。この距離は固定の正解ではない。楽器、マイクの指向性、部屋、奏法に応じて調整するための出発点である。
サウンドホールの真正面へ近づけると低音が強くなる場合があり、ブリッジ側へ向けると別の胴の響きが得られる。Shureの録音用マイク解説でも、アコースティック楽器は位置を試して音色を探す対象として扱われている。
まず位置を変えずに角度だけを動かす。ネック側、胴側、その中間の三通りを録り、ピックの当たる音、和音の厚さ、低音の持続を比較する。距離と角度を同時に変えない方が、何が影響したか分かりやすい。
距離を変えて部屋との関係を見る
気に入った向きを決めたら、距離だけを少し広げる。近い位置では部分的な音が目立ちやすく、離すと楽器全体と部屋の成分の関係が変わる。離れた録音が必ず自然になるとは限らないので、反射や背景の音も含めて聴く。
部屋の響きが強いなら、近い位置へ戻し、サウンドホールの真正面を避けるなどの向きの調整を試す。無理に距離を取ってから大量の処理で響きを削るより、録音時点で必要な成分を選ぶ方が整理しやすい。
録音を比べるときはヘッドホンだけでなく、可能なら普段使うスピーカーでも聴く。低音の膨らみが録音に含まれているのか、再生環境で強まっているのかを切り分けるためである。位置の変更を一度に大きくする必要はない。
指やピックの音を消す前に役割を考える
弦を押さえ替える音やピックの接触は、演奏の輪郭にもなる。単独では目立っていても、歌と一緒に聴くとリズムを支える場合がある。まず伴奏へ置き、どの接触音が邪魔になっているかを選ぶ。
ピックの鋭さが強すぎる場合は、マイクの向きを少し胴側へ振る、弦の真正面を避ける、距離を少し広げるといった比較を行う。弾き方やピックを変更する場合は、マイク条件を保って別の比較として録る。
指の移動音をすべて小さくすると、演奏の呼吸が不自然になることもある。録音後に直すなら、特に大きな一か所だけを部分的に調整する。広い高域をまとめて削る前に、位置と必要な演奏成分の関係を見直したい。
歌が入った状態で候補を選ぶ
ギターだけで聴いて最も豊かな録音が、歌の伴奏として最良とは限らない。胴鳴りが大きい候補は単独で心地よくても、伴奏の中で音を占めすぎることがある。歌やベースを戻し、コードの動きが伝わるかを確かめる。
録音三つのファイルへ、ネック寄り、胴寄り、少し遠いなどの簡単な名前を付ける。後で曲の中へ置き、候補を一つずつ切り替える。複数を同時に重ねる比較にせず、一本のマイクで得た音をそれぞれ評価する。
伴奏の役割が細かなリズムなら弦の輪郭を、静かなイントロなら胴と部屋の響きを優先するなど、場面によって選び方を変えられる。常に同じ位置を使うより、曲の担当から判断する方が再現しやすい。
録音前に、部屋とマイクの条件を整理する
一本のマイクで位置を比較するときは、部屋の条件をなるべくそろえる。窓の開閉や空調の状態がテイクごとに変わると、距離による差と背景音の差が混ざる。椅子のきしみ、足で踏むケーブル、机に触れるスタンドなども、短い試録音で確認しておく。演奏していない数秒を最初に録れば、音楽の外に何が入っているかを聴きやすい。
マイクの正面がどこなのかも確かめたい。先端へ向けて音を入れるタイプと、側面の指定された面へ向けるタイプがあり、外観だけで判断しにくいものもある。説明書で収音面と指向性を確認し、その面を楽器へ向ける。位置を何度変えても音が不自然な場合には、距離の前に向きの前提を見直すことが有効である。
ファンタム電源が必要なマイクかどうかは、機器の説明に従って確認する。接続や設定を変える前にはモニター音量を下げ、変更後に小さな音から再生する。入力が小さいからといって、機種を確認せず電源やゲインを変更するのは避けたい。録音を始める前に安定した接続を作れば、音色を比較する作業へ集中できる。
距離の三候補を、同じフレーズで記録する
基準を約30cmにしたら、約20cmと約40cmの候補を作る。これは比較のための例であり、マイクや部屋に合う距離を保証する数値ではない。角度と狙う場所を固定し、距離だけを変える。テイクの冒頭で位置を声で読み上げるか、ファイル名へ記録すると、後で音だけを聴いたときに取り違えにくい。
各候補では、低い弦を含む和音、細い弦が目立つ和音、少し強いストロークを同じ順で弾く。特定のコードだけが大きく膨らむ場合、録音位置と楽器、部屋の組合せが影響している可能性がある。一つの和音でちょうどよくても、曲全体に合うとは限らないので、実際の曲で使う低音と奏法を試すことが大切である。
距離を広げると録音レベルも変わるため、比較時の再生音量を調整する。録った波形が大きい方を良い音と判断しないよう、耳で近い大きさへ合わせる。強い音で入力が割れた候補は、後から音量を下げても歪みが消えるとは限らない。比較の前提をそろえるため、必要なら入力ゲインを下げて録り直す。
低音の膨らみを、三つの段階で調べる
低音が多すぎる場合、最初はマイクの角度をサウンドホールから少し外してみる。次に距離を少し広げ、最後に演奏する場所を部屋の中で変える。三つを同時に変更せず、それぞれ短く録ると、どの条件で膨らみが減ったか分かる。一本のマイクでも、楽器の一部分と部屋の反射の両方が録音へ影響している。
指向性のあるマイクでは、近づけたときに低音の量が変わる場合もある。ただし、その程度はマイクによって異なるため、距離だけを原因と決め付けない。ギターの低い弦そのものが強いのか、特定の音程だけ長く残るのかを聴く。前者なら狙う場所や弾き方、後者なら位置と部屋の関係も含めて比較する手掛かりになる。
録音後にハイパスフィルターを使う場合も、最初から高い周波数まで削らず、演奏の低い音が細くならない範囲を探す。足音や不要な低い振動を抑える処理と、ギターの胴鳴りを整理する処理は同じではない。歌やベースを重ねた状態で必要な厚みを判断し、単独の波形やスペクトラムだけで決めないようにしたい。
ピッキングとマイク位置を混ぜずに比較する
ピックの当たる音が鋭いとき、マイクを動かす前に演奏の力が候補ごとに変わっていないかを確認する。録音されていると意識して強く弾くと、位置の差より演奏の差が大きくなることがある。短いフレーズを数回続けて弾き、安定した部分同士を聴き比べる方法が役立つ。完璧な同一演奏でなくても、条件を近づける努力はできる。
弾き方を変えるなら、今度はマイク位置を固定する。弦に対するピックの当て方、使う厚さ、弾く場所を一つずつ試す。柔らかな伴奏が欲しいのに強いアタックを録り続け、後からすべて削るより、演奏側で作れる音を探す方が曲に合う場合がある。奏法と収音位置のどちらで解決するかを選べるようにしておきたい。
指弾きでは、親指の低音と高い弦の旋律の釣り合いにも注目する。マイクをネック側へ向けただけでは、もともとの演奏バランスを完全に作り直せないこともある。低音を少し控えた演奏を別テイクで試し、マイクを変えた版と比較する。録る位置と演奏する音の両方を調整できることが、自宅録音の利点である。
編集しやすい余白も録っておく
本番では、演奏開始の少し前から録音を回し、最後の和音が十分に消えてから止める。頭をぎりぎりで切ると弦へ触れる音が欠け、終わりを早く止めると自然な余韻を失うことがある。テイクの前後に少し余白を残せば、編集時に必要な範囲を選びやすい。無音に見える場所も、実際の音を聴いてから切り取る。
採用候補は、元の録音を残したうえで編集用の複製を作る。短いフェードで切れ目を整えた後、歌やほかの楽器を戻して聴く。単独で気になった指の音が曲では自然なら、そのまま残せる。録音の段階で曲に合うバランスを作っておくほど、後処理は必要な箇所に絞りやすくなる。
次の録音へ条件を残す
選んだ位置の写真と、おおよその距離、指向性、演奏方法を記録する。目印は次の録音を完全に同じ音へ保証するものではないが、試す出発点を作れる。楽器や弦、部屋が変わった場合は、そこからもう一度調整する。
一本で音のバランスを探すと、マイクを増やす前に必要なことが見えてくる。アコースティックギターの録音では、豊かな音をすべて拾うだけでなく、曲に必要な響きを選ぶことが重要である。短い演奏と一つずつの位置変更が、その判断を支えてくれる。

